お寺からのお知らせ 住職つれづれ

今月のことば 2020年11月

投稿日:

【今月のことば 2020年11月】

 

人間はひとのために泣くことのできない絶望的な存在

武田定光氏

 

これは私がお葬式で経験したことです。お父さんが亡くなられたとき、悲しんでいるお母さんに向かって娘さんが語った言葉です。「お母さんはお父さんがいなくなって淋しいから泣いているのよ、自分が淋しい淋しいと泣いているだけでお父さんのために泣いているんじゃない」。

 

この言葉を聞いたとき私はドキッとしました。身内を亡くして泣くのは、亡くなった故人のためだと思っていたからです。ところが娘さんはそうではないというのです。子どもがオモチャを取り上げられて泣いているのと同じ。

 

お母さんが愛するものを失って、自分が淋しいと泣いているだけ、つまり泣くのはお母さんのエゴイズムだというのです。この言葉を聞いたとき、人間はひとのために泣くことのできない絶望的な存在だと知りました。

 

この絶望の淵の底から開かれてくるのが浄土の慈悲です。図式的になりますが、聖道の慈悲とは自己と他者の間の愛、浄土の慈悲は自己と阿弥陀如来との間の愛です。

 

「浄土の慈悲」とは、悲しみのこころを否定して、悲しまない者になることではありません。人間から悲しみを抜き去ることは不可能です。ただ、その悲しみの思いそのものをまるごと阿弥陀如来にまかせなさいと迫ってくるものです。

 

今まで身内を亡くして悲しんでいたものが、阿弥陀如来から悲しまれる存在に変わることです。人間の愛には限界があります。その限界に打ちのめされ立ち上がれなくなったもののみ、阿弥陀は無条件の愛で包みこみます。阿弥陀の愛は全人類を視野に入れています。ただ、それに目覚めるのはたったひとりの我が身自身なのです。

 

武田定光氏『なぜ?からはじまる歎異抄』

今月のことば 2020年11月 原文

今月のことば 2020年11月

-お寺からのお知らせ, 住職つれづれ
-,

執筆者:

関連記事

今月のことば 2019 年8 月 ホワイトボード

今月のことば 2019年8月

【今月のことば 2019年8月】 あすへの準備と きのうまでの愚痴で 塗りつぶされた「いま」 宮城顗氏   文章の中にはもっと引くべき箇所があるのだとは思うのですが、 今回は、この言葉に殴ら …

【今月のことば 2022年6月】     東淀川区豊里 真宗大谷派 教應寺     kyououji.com

【今月のことば 2022年6月】

【今月の言葉 2022年6月】 先月は無事、永代経法要をお勤めすることができ、ホッとしています。 おそうじやおみがき、当日の幕張りなどの準備や受付、最後の後片付けまで様々な方にお力をいただきました。誠 …

【今月のことば 2024年2月】 東淀川区豊里 真宗大谷派 教応寺    kyououji.com

【今月のことば 2024年2月】

【今月のことば 2024年2月】 東淀川区豊里 真宗大谷派 教応寺    kyououji.com 「 いろんな事に出遇い、いろんなことを経験し、そして今日までこうして生きております。その中で一番確か …

今月のことば 2021年3月 ホワイトボード

今月のことば 2021年3月

おあさじの会終了後の空   3月が始まりました。 おあさじの会が終わるころには明るくなり、スズメのかわいい声が聞こえてきました。 緊急事態宣言が解除されると、気持ちが少し楽になります。でも、 …

今月のことば 2021年7月 ホワイトボード

今月のことば 2021年7月

【今月のことば 2021年7月】 いつもお参りしてくださるご門徒さんが、木村宣彰さんの言葉をお願いしますとおっしゃってくださいました。 『サライ』2021年3月号の記事をご紹介いただきました。 最近い …

サイト内検索

お寺の掲示板

2025年9月のことば

【今月のことば 2025年9月】 

 死んでからではなくて

 今ここにいただくもの

      カッツ・ツネ氏

行事とお知らせ

お寺の行事 2025年9月
9月1日(月) 午前6時〜 
おはよう おあさじの会
9月23日(火) 午後2時~  
秋季彼岸会    
10月1日(水) 午前6時〜 
おはよう おあさじの会